鉄橋の下 [One's Boyhood story]
S川の河口には鉄橋がかかっている。
それはほとんどボクの子どもの頃と変わらない位置にある。
変わったのは川の方である。
わけのわからん護岸工事が徹底し、川の水は岸を離れ、真ん中を通り、両川岸は浅くなり、子供達は川を捨てた。
それまでは大雑把な石垣があり、ボクら子供はその石垣で手長エビを捕ったり、ウナギを突いたり、汽水域では小さなスミヒキを釣ったり、海へ帰るのかよれよれになって下ってきたニジマスほどの大きさのある巨大な鮎をこっそり捕まえたりした。
でも、今は何もない。
潮があげてきた河口は死んだ湖のようだ。
河口から潮が引くと、浅くなった川に見たこともないような数の水鳥が集まり、空と川面を占拠する。
その辺にはプールの代わりに川のこちらと向こう岸に日本のロープを渡して作った移動式のプールがあった。
水の流れの速さや強さ量に合わせてそのプールは安全な場所に移動した。
時には河口に現れるしゅもく鮫(ハンマーヘッドシャーク)の子供ために監視員が水中銃を持って潜ったりした。
当時学校にもすでにプールがあったけれど、あまり水を換えないので汚くて、川の綺麗な水に慣れたボクらはそんな緑色のプールでは泳いだりしなかった。
ボクと犬と共通の友人は(彼女はボクの友達は自分の友達であると固く信じていたふしがあった。退屈すると勝手に友人のうちに出かけ、「遊ぼう!」と外で吠えていたことが何度かあり、友人は彼女につきあって遊んだこともあったそうだ。)一緒にこの魚影が濃く、比較的川幅の広がった鉄橋の下の川の淀みで泳いだ。
その頃の鉄橋にはアーチ型の赤い柱があった。
『鉄橋』という名前の通りのアーチが4つ5つ連なって向こう岸に届いていた。
今は御覧のようにアーチはなく、工法が変わった今では橋脚の箱の上にただ、普通に線路が通っているだけだ。
当時ボクらは橋桁の上の鉄のアーチの隙間からその下のアクアマリン色をした川の中心に足から飛び込んだ。
ボクらは列車の通ってくるのを待ち、汽笛の音を聞きながら、ほとんど列車から飛びおりるようなタイミングで飛び込んだ。
もちろん恐いから上り下りは列車に合わせることはないけれど、けっこう迫力があった。
学校に苦情が来ないわけはないんだけど、夏休みになると先生は学校にいなくて、ボクらは当時そのことについて注意された記憶もない。
ボクは嫌がる犬を抱えて何度か飛び込んだ。
鉄橋から飛びおりても、ボクらの手も足も頭も腰も一度も川底に触れたことはなかった。それほど、そこは当時深かったのだろう。
二階の高さからボクの犬は何度も空を舞った。
でも、この遊びはあまり愉しくはなかったみたいだ。
彼女はこちら側から向こう岸まで飽きるまで何度も往復した。
ボクは彼女の『犬かき』を水中から見てやろうと犬の腹の下あたりに、潜って上を向いてひどい目にあったことがある。
犬の犬かきは意外と水中で四本の足をいっぱいに伸ばしてつま先立つように水を掻くのでけっこう深くまで水をかき分けている。
彼女は『失礼ね!』とばかり覗いたボクの水中眼鏡を前脚のひとかきで剥ぎ取り、あわてて水面に伸び上がろうとするボクの顔をひと掻きふた掻きして、その痛みにたまらず水面に飛び上がったボクにちょうど浮かんできた浮き輪にぶら下がるように、泳ぎの中休みという感じでしがみついた。
前脚をボクの肩にかけ、後ろ脚は相変わらず犬かきを続けているからボクの背中は傷だらけになった。
ボクは彼女の重さを喰らって半分沈みながら岸まで何とかたどり着いた。
日に焼けた背中に作ったひっかき傷は相当痛かったことをおぼえている。
ボクらは夜のために(夜カンテラをぶら下げてシラスウナギ=ウナギの稚魚を密漁するのだ。)場所を物色し始めると、つまらなくなった犬は勝手にさっさと家に帰ってしまうのだった。
今、同じ場所に立っていても同じものは何もない。
河口には日鉄の工場が砕石した原料を船に積み込む桟橋が出来、ボクらが遊んだり、台風の日に冒険した砂浜は今、目で見ることは出来ない。
鉄橋は相変わらず汽車を通しているけれど、それはもう列車とはいえない一両だけの路面電車のようなワンマン列車になった。
それを悔やんだり、避難する気はないけれど、いつの頃、子供達は川を捨てたのだろうとちょっと切なくなったりした。
でも、まだ川は生きていて河口を捨てた子供達もその遙か上流では、夏の眩しい反射の中で一日中はしゃぎ回っている。
そこはかつてボクと犬が魚を追いかけた場所であったり、彼女がイタチにKOされた場所であったり、ボクの中だけにある思い出の上を重なって泳いでいる。![]()
















うっ、シラスウナギ、密漁・・・。
でも、昔は普通にやっていたようですね。
最近もやられているようですが、取り仕切る方々に問題があるとか・・・。
ウナギの産卵場所も特定(決定?)されつつあるようですが、人工孵化はまだまだ実用的でないのでニーズがあれば続けられるのでしょうね。
by 依光次郎 (2008-11-19 10:06)
はは。小学生のまねっこの悪戯ですね。
あの頃は河原の石をちょっと起こしたら夜中に忍んで行かなくたってけっこう糸ウナギ、いましたよね。
道具のない子供がとる量なんてたかが知れていて、昼間河原の石をひっくり返した方がよっぽど効率が良かったと思いますよ。
by Mineosaurus (2008-11-19 14:55)