
父は若い頃、海
釣りと川の鮎やウナギ釣りに熱中していた時期があった。
鮎は友釣りはやらず、専ら問答無用型の投網を好んでいた。
ボクは
夏休みよくそんな父について川に行き、投網で父が鮎を一網打尽にするのを手伝っていた。
漁師ではないから手加減てものがなかったね。
かつて、その川でおぼれかけて死にかけたボクも泳ぎが人以上に達者になり、潜って大きな鮎のいる淵を見つけた。
父は毛針釣師がいなければ、浅瀬ではなく、専ら大型の鮎が回っている淵に投網をうった。
そこには流木や大きな岩があって、せっかく投網を打っても、網の裾がめくれてしまい、鮎は容易く逃げてしまうのである。そこでボクは父が網を打った瞬間に投網のオモリが水底に着くまでに網の周りを潜ってめくれた網をなおし、完全に鮎を閉じこめたまま網を絞って行けるように泳ぎ回った。
帰りには疲れ切って潜水によって少し頭が痛かったけれど、ボクには素晴らしく楽しい時間だった。
鮎は利口な魚で、浅瀬で投網を打っても余りかからないこともあった。では鮎が少ないのかというとそうではなくて、鮎は投網が自分の上を行き過ぎるまで体を寝かせたり、川底の石に貼り付いたりして投網をやり過ごす冷静な魚でもある。
投網の音に驚き、パニクったものは当然網に絡め取られるのだが、実際にはそうやって逃げおおせる鮎は結構いるのである。
ボクはそんな冷静な鮎を追い立てて投網の袋に引っかける役割をした。
つまり勢子である。
勢子が潜って投網を打つものを助けることは確か禁止されていたのだが、ボクは
子供だったので監視員は眼中になかったのだろう。一度も咎められたことはなかった。
父はボクの犬を連れて行きたくないのだが、彼女はボクより先に川に行く父の気配を察知し、父がこっそり玄関を出て
バイクの側へ行くと既にバイクの
ステップに前脚をかけて『さあ、行きましょ!』っていう風に構えていたものだった。
出し抜くのには本当に難しく、ボクの犬が同行するときは淵で投網を打つ回数は極端に減った。
父はボクの自転車に付けたと同じような細工を川に行くとき乗って行くバイクに施した。
座席とハンドルの間にスチールのかごを取り付け、そこにボードを貼って犬が乗れるスペースを作った。
父が握るハンドルの間に彼女は両前脚をかけ風に当たって気持ちよさそうに乗った。
スピードが出てくるとぐっと前に乗り出す彼女をボクは後部座席から尻尾を握って抑えていた。
時々白バイがボクらのバイクに走り寄ってきて併走するのだが、乗っている人間が規定の二人なので犬の姿を見つけると驚いてはいるが、平静を装って追い越していったものだった。
![[たらーっ(汗)]](http://blog.so-net.ne.jp/_images_e/163.gif)
当時、後部座席のボクも
ヘルメットを被ったりしなかったし、父も麦わら帽子を被っているだけだった。
今は勿論後部座席でもヘルメットは必要だし、ひょっとしたら犬も被らなきゃいけないかも知れない。
河原に着くと、ボクと犬は父より先に駆けだして行った。
既に自宅から海パン着用のボクは強烈な陽射しで
日焼けする苦しみを軽減するため、
ランニングシャツを着たまま川の流れに飛び込んだ。
ヨモギの葉を探し、
手のひらで揉み、その葉汁を水中眼鏡に塗って曇りを止め、父の準備ができるまで犬とはしゃぎ回って、父の投網投げの絶好
ポイントを台無しにして回った。
犬と一緒の時は父はまず、瀬打ちをした。
父のためにボクは犬を抱きかかえ、彼女が動き回るのを止める役割をする。
そうしないと彼女は、父の投網のタイミングを知っているので父が投網を打った瞬間に脱兎の勢いで浅瀬を駆けだし、見事にと網の真ん中に入ってしまう。彼女にとっては父が投網を打つ方向と場所を見つけ、ドンピシャのタイミングで網の下に飛び込むのが堪えられない遊びなのである。
父は鮎を捕る前に犬をかけてしまうので、あっという間に網が破れてしまうのである。まして、淵で犬が網にはいるとまず、間違いなく暴れる犬に網がずたずたにされてしまうのである。
投網を投げる父の気配を察知して興奮した彼女は、吠え、『離せー』とボクの腕の中で暴れ、ボクの両腕は傷だらけになる。
父が打った投網が徐々に引き絞られるのを、彼女はピンと発てた巻尾をぱたぱたと振りながら、鼻面を水面に付けてじっと見つめる。
![[犬]](http://blog.so-net.ne.jp/_images_e/100.gif)
そして、ある瞬間に水しぶきを上げ、猛然とジャンプするように伸び上がり、そこら辺を前脚で踏みつけ始めるのだった。
どうやら、彼女は網をうまくかいくぐった鮎を見つけては、前脚で押さえつけようと躍起になっているらしかった。
残念なことにさすがの彼女にも水中は見えないらしく、当てずっぽうのようで、彼女の攻撃は敏捷な鮎にはほとんど効果はなかったようだ。
でも、彼女は飽きることがなかった。舌を流れに届くほど伸ばし、笑っているような口元で水面を見続ける彼女は、本当に楽しんでいるという感じだった。
ある時、そんな彼女が浅瀬の流れの中で動かなくなった。
よく見ているとちょっと戸惑ったような表情で、水中に鼻を突っ込みかけては、やめる動作が繰り返されていた。
父が『捕まえたか?』と犬に声をかけたが、彼女は父の方をちらと見て、ボクの姿を探した。
ボクがザブザブと近寄って行くと、彼女はようやく安心したように体を動かし、前脚を水底から離した。
数瞬後、ボク達が立っている川の流れの30㎝ほど下手にぷかりと大きな鮎が瀕死の体を浮上させた。
ドッシリと幅のある体高と、今では見られない大きな鮎だったが、彼女が懸命に抑え付けたおかげで真ん中からちぎれかかっていた。
『凄い。凄い。』とボクは誉めたが、彼女はつまらなさそうに父の投網の方に目をやり、身構えた。
闘いはまぐれ当たりの勝利で、彼女はそれを余り楽しめなかったようだ。
彼女は鮎はあまり好きではなかった。
匂いが苦手なのか、ウナギはよく食う犬だったが、鮎はダメだった。
茴香の香りは峻烈で犬の敏感な鼻には、きつ過ぎるのかも知れないと、その晩食べ残した彼女の鮎を見て父が言った。
その夜、疲れて眠く、同じように生あくびをして眠そうな犬を抱えて二階に上がった。
![[眠い(睡眠)]](http://blog.so-net.ne.jp/_images_e/157.gif)
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2008-10-20 07:29
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こんにちは♪
いつも読みごたえがあって、こんな小さなコメント欄じゃなく、読書感想文書きたくなっちゃいます。
映画のように頭の中に映像が浮かんできました。
by こいし (2008-10-23 17:13)